番外実験

  現在の「生物の実習」にはのっていない実験や,楽しい実験を紹介します。

クマムシの観察


目 標

クマムシはユーモラスな形態と特異な生活史を持っているが、一般に認知度が低い。しかし採集やが容易であり、手軽に顕微鏡観察が可能である。

準 備

  • [材料] ギンゴケ・ハマキゴケなど
  • [器具] 顕微鏡,双眼実体顕微鏡,検鏡用具,簡易ベールマン装置,パスツールピペット
  • [薬品] 寒天

方 法

  1. 簡易ベールマン装置にコケと水を入れて、上からは光を当てて2~3時間放置する。装置の下のキャップの水をシャーレにあけ、双眼実体顕微鏡でクマムシを探す。      
  2. 寒天培地を作成する。
  3. 実体顕微鏡で観察すると,クマムシが4対の脚で水の底をもこもこと歩いているのが観察できる。パスツールピペットでクマムシをとり、寒天培地にのせ顕微鏡で観察する。カバーガラスはかけなくてよい。    
  4. 水が蒸発するにつれて、クマムシの動きが鈍くなり、最終的に樽(タン)状態になる。    
  5. 樽状になったクマムシに、ピペットで水を一滴入れて再び動き出す様子を観察する。      

結 果

オニクマムシとトゲクマムシ,オニクマムシの樽状の画像です


校庭のコケ オニクマムシ トゲクマムシ
樽(tun)状態 口・目・鈎爪 寒天培地(本来は着色しません)

参考ビデオ

 活動中のオニクマムシと樽状へ移行する様子と樽状態から復帰する様子です。見たい画像の文字をクリックしてください。


クリックしてください。
オニクマムシ1
オニクマムシ2
樽状態へ
樽状態から復帰

留意点

  1. 採取のためのコケは、乾燥したものでも生き生きした苔でも採取できる。文献には「どこでもいる」と書かれているがそうともいえない場合があり,クマムシが全く採集されないエリアもあることから、コロニーがあると考えてもよいかもしれない。 
  2. コケからの採集を行う時、必ずしもベールマン装置を使う必要はない。シャーレにコケをいれ、水を加えて1~2時間程度放置し、コケなどの塊を取り除いて実体顕微鏡で観察を行うこともできる。またクマムシのみでなく多くの生物も同時に採集・観察できる。クマムシは水中ではゴミ等に絡まった状態でいることがあるので、まず実体顕微鏡で観察をおこない、できるだけクマムシを単体で取り出すことが、その後の観察を有利に進めることとなる。顕微鏡は低倍率から観察する。   
  3. 寒天培地を使用すると,樽(タン)状態の移行・復帰を緩やかに進めることができる。以前はホールスライドグラスにクマムシを入れカバーガラスをかけて観察をしていたが,あまり結果を得られなかった。寒天培地を用いることで乾燥・復帰速度が緩和することができ良い結果を得ることができる。課題は乾燥に時間がかかることである。   

クマムシとは

  • クマムシは分類上環形動物と節足動物の間に位置すると考えられ、体長は50μmから1.7㎜程度であり,肢は4対8本。緩歩動物門(Tardigrada)で,現在淡水性、海洋性、半水性と陸生をふくめて、92属,750種が知られている。名前の由来は,爪で苔の上をクマムシのようにのしのし歩くから来ている。また体型も熊に似ていることからwaterbearと呼ばれている。4対8本の脚とその先端には鈎爪がありコケなどに引っかけながら歩く。エサは田の動植物の体液や有機堆積物で,淡水性の生息地は苔,地中,水辺などごく身近である。陸生のクマムシはコケの中のようにじめじめした環境を好むが、環境が悪化したときは(乾燥状態になる時)、体内の水分を約3%程度まで減らし,代謝を押さえることで樽(tun)状態(クリプトビオシス、潜伏状態、乾眠ともいう)へと変化する。樽(tun)状では数十年、高温(100℃)、低温(-270℃)で長時間耐えるとの報告もある。また有機触媒、紫外線、X線などの放射線や真空状態にも耐える。水に戻すと復活して活動を開始する。体液にトレハロースが含まれ,これが樽状態に耐える要因とされている。
  • 文献によると、樽状になったものは悪環境に長時間おいた後も、水に戻すと復活することが記されているが最近検討が加えられている。しかし実験としてオートクレープや電子レンジ等に入れた後、復活をおこなうことも実験できる。最近の研究で,「驚異のクマムシ 7万5000気圧 へっちゃら 岡山大学大学院小野教授ら 乾燥状態での生存確認」の記事がありました。樽状態のクマムシは7万5000気圧という高圧にさらされた後、水に戻すと生存していることを確認しています。通常動物の細胞は3000気圧で死滅すること言われており、これは驚くべき生命力と言えよう(山陽新聞 2007年7月25日より一部抜粋)。 
  • ベールマン装置による分離
    クマムシの採取方法に,ベールマン法がある。採取した苔を細かくちぎり底に小さな穴があいている筒にいれ水に浸す。1~2時間程度放置する。このとき上から電球で照らすと熱や光を避けるため生物は下方に移動するため,沈殿物を検鏡する。この方法で線虫類、ヒメミミズ類、クマムシなどの微生物を集めることができる。
    次に簡易ベールマン装置の作り方を示しています。ベールマン装置と同じ結果を得ることができる。制作には特別な材料が必要ではなく、作成が容易であるため興味のある方は作ってみてください。 

簡易ベールマン装置の作成

  [材料] 500mlペットボトル 2個,カッターナイフ,ガーゼ,輪ゴム

ペットボトルの上部を切り取る。これを2個用意する。切り口で手にけがをすることがあるので,少し加熱して切り口を丸くしておく。

ペットボトルの上部2個・ガーゼ・輪ゴムを用意する。

1個のペットボトルの口にガーゼを輪ゴムで止める。別のペットボトルにキャップを閉める。

ガーゼをつけた方を上にして2個を重ねる。そのままでは不安定なのでビーカ等を台として用いる。上のペットボトルにコケを入れる。その上から水を入れる。

水はコケが充分浸る程度に入れ、上から光を当てて2~3時間放置する。下のペットボトルのキャップの水をシャーレに移して実体顕微鏡で観察する。移すときキャップの底に溜まったゴミも一緒にシャーレに移す。シャーレの底でゴミと一緒に動いているクマムシが観察される。

参考文献

  • クマムシ?!小さな怪物 鈴木忠 岩波科学ライブラリー
  • とっておきの生物実験 生物の科学 遺伝別冊10号 裳華房 
  • Life History of Milnesium tardigradum Do?re(Tardigrade) under a Reraing Environment ZOOLLOGICAL SCIENCE 20:49-57(2003) Atusi Suzuki
  • Ecologu and Classification of North America Fershwater Invertebrates
  • The Bioligy of Tardigrades Ian M. Kinchn Portland Pres