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STORY 01
お前らの赤い糸、切っといたぜ

 

非リア論

龍泉華

「私たち、今日で付き合ってちょうど一年なの!」

だからなんだ。

「ずーっと一緒にいよう」

薄っぺらい。

「私、彼がいないと生きていけない」

嘘吐け。

 

本当に何にもわかってない。

十代の恋情なんて所詮は偽物。

思春期のガキが背伸びするための勘違い。

自己陶酔。エゴの産物。

ああ、馬鹿らしい。

 

 

「ちょっと、ねえ。ねえってば!」

「……はあ? なんだよ」

昼休み。昼食を終えて机に突っ伏していた俺を起こす、幼なじみの彼女。腰に手をあてて、白い頬を膨らませて……何だか怒っている。

「貴方、またやったの?」

「なんのこと?」

心当たりはあるが、とりあえずしらばっくれてみる。

「三組の愛ちゃんだよ! 愛ちゃん、せっかく佐藤くんといい感じだったのに……貴方が二人の赤い糸、切っちゃったんでしょ!」

うわあ。なんで、バレてるかなあ……彼女が部活の時間に切ったはずなんだけど……仕方ない。ここはいい感じに誤魔化そう。

「なんで、俺がその二人の赤い糸を切るの?」

「それは……貴方は非リアだし、愛ちゃんの周りの子たちが貴方のせいだって噂してて……」

「幼なじみの俺の言葉より、お前は噂を信じるの? てか、非リアは俺以外にもいっぱいいるだろ」

俯いて黙り込む彼女。ああ、強く言い過ぎたか。

まあ彼女は悪くないし、むしろ赤い糸を切ったのは本当に俺だしなあ……

「なあ」

「……」

謝るために声をかけるが、返事はない。

こうなったら一か八か、俺は口を開いた。

「糸を切ったのは本当に俺じゃないよ。それに」

彼女の腕を引いて自分の方に近づけさせてから、俺は彼女の耳元で言葉を続ける。

「俺にはお前がいるから」

非リアじゃないでしょ、と囁くと、俯いていた彼女の顔がみるみるうちに紅潮していった。そして――

「私は、貴方のことそういう目で見てなかった! なのに、いきなり、こんな、耳元で……気持ち悪い!!」

 

――GAME OVER――

 

 

「『私たち、今日で付き合ってちょうど一年なの!』

だからなんだ。

『ずーっと一緒にいよう』

薄っぺらい。

『私、彼がいないと生きていけない』

嘘吐け。

 

本当に何にもわかってない。

十代の恋情なんて所詮は偽物。

思春期のガキが背伸びするための勘違い。

自己陶酔。エゴの産物。

ああ、馬鹿らしい。

 

――そう思っていた、はずだった。

 

すべてのリア充が爆発するとき……

『ねぇ、私とリア充になろうよ』

あなたは運命の彼女と結ばれる。

 

彼女にバレないように、リア充共の赤い糸を切りまくれ! 青春爆発系ゲーム『お前らの赤い糸、切っといたぜ』」

 

軽快な音楽とともに、虚しく流れるオープニング。

清楚な幼なじみキャラの攻略に失敗し続けて、これでもう四度目。

「今回は結構良い線いってたんだけど……やっぱりまだ好感度が足りなかったか……」

こうなったら絶対攻略してやる、と俺は画面の「最初からはじめる」をタップし、ヒロインを彼女に選択した。すると画面が切り替わり、「貴方の声がききたいな」と画面越しに彼女が耳をすませている。

そこではっと我に返った。

「はあ、なにやってんだろ」

 中学のときに女子と話したことと言えば本当に事務的なことばかりだったけれど、高校に入ったら自然と彼女ができると思っていた。でも、この調子なら高校生活も中学時代の二の舞になりそうだ。

 でもまあ、それでもいいか。どうせリア充はずっとリア充だし、非リアはずっと非リアなんだ。

「そのゲーム、女性用があるの知ってる?」

 ふいに頭上から声をかけられてびっくりしてその声の主を見上げた。彼女はさらさらとした長い髪で、俺が攻略しようとしていたキャラに少しだけ似ていた。「このキャラが好きなの」とか「ここが苦労して……」とか一生懸命に話している。でも俺は女子とこんなふうに話すのは久しぶりで、あまりうまく話せない。「うん」と相槌を打つのが精一杯だった。

 しばらくして、彼女を呼ぶ女子の声が聞こえた。彼女ははっとして少し申し訳なさそうな表情をする。

「ごめんね。私ばかり話してたね」

「いや、いいよ。楽しかった」

「また話そうね。えっと……名前……」

「ああ、俺は――」

 そして彼女は俺の顔をじっと見て、俺の名前を何度か繰り返した後、「よし、覚えた!」とはじけるように笑う。その顔は特別綺麗なわけでもないのに、俺はつい見惚れてしまった。

 「またね」と彼女が去っていった後、俺は自分の顔が少しだけ熱いのがわかって、その顔を手で覆いながら呟く。

「やっぱり、リア充になりたいんだよなあ……」

 ゲーム機の電源がいつのまにか切れていたことに、俺はまだ気が付かなかった。

 

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